「煮染めでご」の「どじゃらな人」

(2月27日)

 行きつけの店のメニューに先月から「でご」が登場した。大根を甘辛く煮たもので、輪切り一つ100円。体を温めてくれる。
 ある夜、若い客は「でご、って何ですか」と店の人に質問、大根のことだと分かると、「なんだぁ」といった表情。こちらは「でご」も知らないのかと、方言が消えゆくことを嘆いた。
 すると、その日の相棒は「俺のオヤジは煮染めでご、みたいな男だった」と話した。野菜やきのこ、厚揚げなどを煮て汁を染み込ませたそれは、家庭料理の定番。彼は、煮染めの具材で最後まで残るのは大根だと話した。
 「秋田の一つ残し」。宴会で料理がなぜか皿に一つだけ残る。本当はきれいに平らげてしまえばいいのを、互いが遠慮して、いや、最後の一つを食べるのは卑しいと思われかねないので、結局は残ってしまうことを指す。
 「煮染めでご」は「秋田の一つ残し」に類した表現だと推測したのだが、彼は「なかなか帰らない人のこと」と教えた。酒宴が締めになっても帰ろうとしない人は、煮染めの最後まで残る大根のようである、という喩(たと)えだ。
 彼の亡き父は公職にあったが、子や妻が帰宅を待ちわびているのに、長々と居残る「煮染めでご」であったらしい。そこから彼は自分の父を「どじゃら、だった」とも腐した。
 久しぶりに聞いた雑言の方言。調べたことがなかったので、方言辞典をめくると、冨波良一著「採録能代弁」に、「どじゃら」は①うつけでふぬけな②だらしなくてしまりが悪い③すべきこともやらず④なげやりなやりかた─と説明があった。使用例に「おがどじゃらだば、やめらひらえと」(あまりなげやりだとクビになるよ)。
 物事を気にせず、かまわないことを「頓著無い」と言う。その「どんじゃくない」が音変化して「とじゃら」になり、濁音の入ったより強い語調の「どじゃら」になったとみられる。
 彼の父は、家族からみれば、だらしない「どじゃら」だったのだろうか。
 もうすぐ3月。異動や退職、卒業など別れの季節。名残惜しいだろうけれど、宴席では「煮染めでご」の「どじゃら」にならぬようにしたいものだ。

(八)


 

月末金曜午後はプレミアムにだって

(2月22日)

 プレミアムは本来、割増金や景品・賞品の意味の英語だが、この頃は「高級な」を想像させる形容詞で使われることが多くなった。アイスクリームやチョコレート、ビールなどにもプレミアム、それどころかスーパープレミアムと超高級も登場している。
 ちょっとした贈り物にプレミアムが付いていれば、受け取った側もこれまでにもました気遣いを喜ぶかもしれない。たまには頑張った自分にご褒美と、いつもの定番商品ではなく奮発して値段の高いプレミアムを食べたり飲んだりして、満足感に浸る人もいる。
 今月24日から毎月末の金曜日にもプレミアムが付くことになった。政府や経団連など経済界が、午後3時終業を推奨するアベノミクスの働き方改革と連携した個人消費喚起のキャンペーン。「少し早めに仕事を終えて、ちょっと豊かな週末を楽しみませんか?」と。
 大概は給料も出ており、プレミアムフライデー推進協議会は「例えば」として、▽ちょっと長めの休日で普段は行けない「2・5日」の旅へ▽大切な人と夕方からアーリーディナー▽平日昼間にゆったり贅沢(ぜいたく)「午後ブラショッピング」▽友達みんなで集まってゆっくり「夕飲み」▽家族そろって料理を作って「午後パー」しよう▽うちの会社もみんなで「早上がり」─などを挙げている。
 なるほど、ゆったり、まったり、楽しい、のプレミアムである。だが、冷めてしまう。そんな風にできる能代山本の働く男女はどれほどいるのだろうか。
 決して高くない給料、いや低い月給でギリギリ生活しているのに、消費して豊かにとは、景気の回復感のない地方では現実的ではない。限られた陣容で忙しく仕事をしているのに、その月の仕上げに追われる金曜午後を3時から休める事業所はそうあるものではないはずだ。
 大手企業では午後半日有休など退社奨励を設定、商業施設や旅行会社ではサービス提供を企画しているが、果たして地方では広がるか。変わらずか。
 閑古鳥が鳴く能代市内の飲食店街。月末金曜だけはほぼ盛況が続く。ささやかな会食、憂さ晴らしの飲みであり、プレミアムに見えないのだが。(八)


 

ふるさと納税、あの人この人

(2月18日)

 街で出会った顔見知りの女性が「ふるさと納税って、どうやればいいの」と聞いてきた。
 彼女は福岡県の博多明太子や佐賀県の呼子いかしゅうまいなど各地のおいしい食品を時々取り寄せしており、全国の自治体が肉や果物、酒といった返礼品の豪華さを競って、テレビでも「お得」が紹介される「ふるさと納税」に、遅ればせで関心が及んだらしい。
 こちらも寄付型納税をしたことがないので、申し込みの仕方が分からず、「調べてみる」と返事したが、後で彼女の動機は「それでいいのか」と思った。自分が生まれたり、育ったり、一時でも暮らしたりして世話になった地域を応援するためなら、制度の理念に合致する。けれど、最初から返礼品狙いであり、趣旨から逸(そ)れていると感じたのだ。
 ただ、各自治体が特産品や観光を競争して宣伝、そこから特定の市町村に興味を覚え、返礼品にも期待するのであれば、自治体の努力が評価されたことになり、それは効果ともいえるだろう。
 待てよ、とも考えた。70代半ばの一人暮らしの彼女の年収が幾らかは知らないが、年金だけだとしたら対象外になるかもしれない。300万円を超えれば、約2万2000円の寄付ができるそうだが、返礼品目的ではうま味は少ないと思われる。いや、税収不足の能代から、彼女のわずかな税金でも逃げていくのは、どんなものだろう。
 宮城県に住む同期生から便りが届いた。兵庫県神戸市が新年度からふるさと納税の返礼品目に「空き家・空き地の草刈り」を加えるとのニュースに興味を覚えたと。
 3万円を寄付すると、シルバー人材センターに委託する料金1万円が引かれるという。自らは税の控除を受ける一方、ふるさとの家・土地を管理できる仕組みだ。
 彼は「限られた所得の一般的な能代出身者がふるさと納税を行うには、目に見える効果が必要だと思う。なかなか帰郷できない中で墓の掃除や、空き実家の草むしり、防虫、冬期間の家の除雪などを代行してもらえるなら助かるなぁ」とも。
 返礼品競争はそろそろ限界。制度の見直しと新しい発想が必要と教えられた。  (八)


 

ほっこりするイベントの灯り

(2月14日)

 本紙では、昼の行事のミニかまくら作りを楽しむ子どもたちの写真を掲載したが、夕暮れからの点灯は、ことのほか住民の心を温かくさせたのだろう。
 1月21日に三種町八竜地域の浜田農村公園で行われたイベント「雪遊びを楽しもう!」。2年前に発足した「日向山をあじわう会」が企画した。ミニかまくらは3世代40人が参加して200個以上作られたという。
 このイベントに参加した浜田地区の70代のの2人の女性から、本紙の「読者のひろば」に、「たった一夜のこの美しさとほっこり感。思い出からこぼれないように何度も何度も振り向き…」、「何よりも協力し合うと無から有が生まれることを実感できる場になった」との声が寄せられ、掲載した。
 すると、また投稿が。たまたま通りかかって、車を止めてしっかり見た72歳のW子さんの感想だった。「真っ白い雪の中にひっそりと、ポヤポヤと灯(あか)りがともされ、まるで孫さんのように可愛(かわい)くて、抱きしめてあげたいほど感動させていただきました」と。三種町に嫁いで50年以上になるがこんなに感動したことはなかったとも。
 田舎の雪国の冬の風景は美しいけれど、日々の暮らしは厳しくて辛(つら)い。それだからこそ、ちっちゃなかまくらの中に灯(とも)るろうそくの火は、見る人をほっこりさせて、幻想的に思うらしい。何も観光化した大イベントでなくとも、地域の住民が力を合わせ、子どもはもちろんお年寄りも楽しめ交流できる小さな催しであれば、人の心をとらえるのだとも教えられた。
 11日。能代市役所の新庁舎のさくら庭で18回目の「のしろまち灯り」が行われた。天気に恵まれたことや、駐車場が一定程度確保され、また会場がイベントを楽しめるのに適したことから、例年以上の人出だった。
 子も親も祖父母も笑顔でイベントを喜び、手作りろうそくなど500個以上の灯りを見入っていた。国登録有形文化財の旧議事堂の淡い照明もまた優しいと知った。
 小さな灯りが広がる写真を能代から離れて18年の人にメールで送ると、「きれいだね。こんなイベントやっているんだ。見たい」と速攻の返事。

(八)


 

スマホに届いた未納料金発生

(2月8日)

 職場のフロアで唯一、ガラケーの二つ折り携帯電話を使っていたが、最年長も遅まきながら時代に乗り遅れまいと、音声通話可能な携帯コンピューターのスマートフォン(スマホ)に切り替えた。
 それから約3カ月。いまだに多機能の使い方に四苦八苦、インターネットの検索もままならない。スマホを器用に扱っている若い人は、「もてあそぶ」「いじる」を意味する秋田弁の「ちょす」がぴったりだが、こちらはそれができない「ちょへね」が続いている。
 そんな中で先日、ショートメールが届いた。開いてみると、「有料動画閲覧履歴があり未納料金が発生しております。本日ご連絡なき場合、法的手続きに移行します」の文面。英大文字3つの会社の相談室からとあり、03から始まる電話番号が示されていた。
 身に覚えがないのでそのままにしていたが、仲間が集まる店で話題にしたところ、先輩たちは「触ったべ」「見だた」などと、いやらしい映像に誘い込むネットの画面にタッチして見ただろう、と疑惑の目を向けてきた。「していない」と返しても、信じる様子はなく、苦笑するしかなかった。
 スマホを「ちょへね」オヤジだからそういうことはしないのだが、「ちょへね」ゆえにあちこち触れて誤って操作した可能性もなくはない。すると、若い夫婦が「そんなメールはしょっちゅう来ますよ。無視することですね」とアドバイス、同様のメールが届いた後輩は迷惑ブロック対策を購入した携帯スマホ代理店で設定してもらったこと紹介した。
 その後、本紙にこんな記事が載った。能代署の発表で、「能代市内の20代男性がアダルトサイトの架空請求詐欺に遭い、44万円をだまし取られた」と。スマホで閲覧中に画面に「登録完了」が表示され、退会を伝えるため画面に記載された電話番号に連絡すると、入会料と退会料の支払いを要求され、支払ったとある。
 ネットの世界には、あの手この手で人を騙(だま)し金を引き出そうとする犯罪集団がうごめいて、狙っている。慌てず無視、あるいは警察に通報・相談する心構えが必要と感ずる。防犯組織も、対策の周知の徹底を。(八)


 

除雪にヘトヘト、春待ち遠しい

(2月3日)

 寒波が再び。能代市柳町の店舗に用事があり、国道101号交差点を渡ると、行きも帰りも猛烈な西風に煽(あお)られ、危うく転びそうになった。下校の小学生はへっちゃらなのか歓声を上げていた。
 子どもの頃に米代川沿いに平行する直線道路に起きる地吹雪を背にしたり向かったりして楽しんだのに、今はそんな気持ちになれない年になったのだと、自覚した。
 猛吹雪の中、雪かきをする70代の男性がいた。彼は降雪があれば朝夕丁寧に行う。そのうえ、近所の一人暮らし高齢女性の通路の雪払いも買って出ている。隣家の80代の男性も、向かいの一人暮らし女性も、雪が降ってくれば、戸外に出てきて、こまめに雪を取り除いている。
 彼らより若いこちらは、除雪が2日続いただけでへばってしまい、通路の幅がだんだん狭くなってきているというのに。近所の先輩と顔を合わせれば、「あどいナ(もういいな)」と泣きを見せているのに。
 雪かきに精力的な高齢者の姿を目にして、ある言葉が浮かんだ。「ねんか」。「極度に入念なこと。丁寧すぎること。慎重」を表す方言だ。語源は未詳のようで、「ねんかもの」は「猜疑(さいぎ)心の強い人」を指す。つまり、良い意味で捉えれば、丁寧すぎる彼らは、寒波や大荒れに警戒感を持ち、雪に対して早めに対処しようとする人である。
 対して、時に手抜きをしてきっちりとした状態を作れないわれらは、中途半端の「ながらまじけ」「ながらはんじゃく」ということになろうか。
 「ねんか」の部類に入る友人がぼやいていた。「とろめがしたのに、まだユギ」と。せっかく雪寄せして車の出入りもいい状態としたのに、再びの雪で除雪車が寄せた雪が家の前にもっこりとなったことを指していた。
 「とろめぐ」は解けた状態も言い表す「蕩(とろ)ける」が語源かと思ったが、調べると「片付ける」「掃除する」の意味で、「取り除(の)ける」に由来するのではないかという。
 難儀な冬が続くが、明日は「立春」。駐車場の雪かきでヘトヘトとなったという若い女性が「春が待ち遠しい」と言っていた。同感である。(八)