忍び寄るハクビシンとイタチ

(5月30日)

 去年の今ごろだったか、友人が困惑した様子で「何だと思う」と聞いてきた。
 夜になると、息子の部屋の天井裏から、ごそごそと物音がするようになった。日中は何ともないのに。それがしばらく続いた後、天井に染みが広がってきた。これは何かの動物がいるに違いない──と状況を説明した。
 テレビの情報番組で、ジャコウネコ科のハクビシンの被害が全国各地で起きているとリポートしていたのを思い出し、「ハクビシンではないのか」と伝え、県内の駆除業者の連絡先を教えた。
 古くなって一部損壊していた家の土台の排気口から進入、外壁と内壁の隙間を通って、夜な夜な屋根裏で活動していたものと推測された。それらから、体長60㌢前後、尾っぽ約50㌢のハクビシンではなく、小さなイタチかテンだろうとの結論に至った。
 その後、彼は屋根裏に潜り、糞(ふん)など汚物を除去、忌避剤をまいたり、夜中にライトをつけたりと対策をとったところ、小動物が現れることはなくなった。
 今月初めに幼なじみが帰省。母の施設入所でしばらく空き家状態だった実家が動物に荒らされているようだとの連絡を受けてだった。
 泣きそうな顔をしていた。台所付近の屋根裏の一部が抜け落ちて、汚物が広がっていて、その処理が大変だったという。裏の戸の下が掘られたような跡があり、そこから進入したとみられている。
 ハクビシンが再び頭によぎったが、とにかく謎の動物が何であるのかの把握が必要で、業者に頼んで定点ビデオカメラを設置したところ、3日後の映像にハクビシン2匹がはっきり写っていた。
 そのビデオを見せてもらったが、ちょっと怖かった。目を光らせたハクビシンがカメラをじっと見てから尾を振りながら屋根裏をのそのそ動き回り、姿が見えなくなったと思ったら、横からひょいと出てくる。捕獲と処分の資格を有する業者に対策を相談中である。
 衛生環境が向上、ネズミは減ったように思うが、今やイタチに加えてハクビシン。アライグマもいる。友の騒動は、害獣の生息範囲が広がり、能代山本に忍び寄っている警告と受け止めた。  (八)

                        


 

「はなこんび」の方がいいのに

(5月26日)

 尾籠(びろう)な話に加え、罵詈雑言(ばりぞうごん)も混じるので不快な思いをするでしょうが、ご容赦を。
 どこの「道の駅」の土産品コーナーだったか。「秋田犬の鼻くそ」の商品名が目に飛び込んできた。「何だろう」とパッケージをしげしげと見ると、イラストのかわいい秋田犬が鼻をほじくっていて、その周辺に焦げ茶の丸が幾つか散らばり落ちていた。
 中身はピーナッツをココアで包んだ菓子。「鼻くそ」の隣には「秋田犬のふん」があり、こちらは小さな饅頭(まんじゅう)型のチョコレートクッキーだった。製造販売する秋田市のメーカーは「ちょっぴり笑いを誘うユーモラスなネーミングの商品」と宣伝している。 
 興味は覚えたが、買うまでに至らなかったのは、職場や家で「何よそれー」と言われそうだから。それよりも、「くそ」という言葉に抵抗を感じるから。
 能代山本では、相手をののしったり、自分に腹を立てたりした際に「くそたらし」とよく言う。「くそったれ」ではなくて。冨波良一著「採録能代弁」では使用例に「なにこの、くそたらしばがけ」(なんだと、このアホバガモンが)と「オッチュ、くそたらし」(アラー残念、なんとももはや)を示している。
 相手に「くそたらし」の面罵(めんば)されたのに対して返す方言が「くそまぐれ」(くそ食らえ)で、「おれの知ったことか」「とんでもない」「アカンべー」「絶対反対」「そっちの言うことなどに従うもんか」などを表現すると冨波氏は説明している。
 ということで、「くそ」の付く表現はあまり使いたくないもの。それでか、関東地方に住む能代市出身の女性は、東京生まれの夫が「鼻くそ」というのに違和感を覚えるという。「鼻こんび、の方がまだいいのに」と。
 「こび・こんび」は、「こびつく」「焦げ」からきた方言で、ご飯のお焦げ、魚などの焼け焦げ、へばり付いた塵(ちり)・垢(あか)を指し、鼻の中にこびりつく垢が「鼻こんび」というわけ。
 ところで、いつもつるんでいる2人を「はなこんび」とからかうが、これは「花コンビ」ではなく、「金魚のふん」と同義のくっついて離れない「鼻こんび」のことと改めて理解する。(八)

                        


旅の土産に果実を求めて

(5月20日)

 旅の土産に果物を求めるようになった。それも、友人や親類に贈るためではなく、自分用に。
 果物は、子どもの頃に運動会や遠足などの〝晴れの日〟に用意されるバナナ、産地が身近にあるリンゴ、ナシ、メロンに、夏はスイカ、冬はミカンが主体だったが、どちらかというと敬遠していた。皮をむくのが面倒だったからかもしれない。
 しかし、近年は果実の多様な美味(おい)しさに惑わされ、あれもこれもと口に入れるようになった。
 それは、物流が迅速化と広域化し、全国の特産が店頭に並ぶようになったのと、リンゴ、メロン、ミカン、イチゴ、ブドウなどにさまざまな品種が開発され、産地が消費拡大に力を入れ、それらがいろんな形で紹介されることが要因と思う。
 加えて、道の駅や農産物直売所が各地に設置され、低廉な価格で購入できることが拍車を掛けるのだ。
 3月下旬、友人を訪ねて気候温暖な神奈川県湯河原町に行くと、駅前で農家のおばさんが、ゴルフボールのような黄色の小さな柑橘(かんきつ)を売っていた。「ゴールデンオレンジ」の表示。観光客が次から次へと買うので、こちらも1ネット20個ぐらいを300円で買った。
 皮はむきにくかったが、爽やかな香りがあり、口に含むと強い甘みと酸味が広がった。日本の「黄蜜柑(きみかん)」は初めての味で、「小さくてもキリリ」。
 先日、山形県庄内地方を旅して物産館に寄ると、イチゴがあった。最近スーパーに出回っている「おとめ心」かと思ったが、「庄内かなみひめ」という知らない品種で、興味を覚えて1パック(600円)を購入した。
 「かなみひめ」は、静岡県富士市の「とちおとめ」と「章姫(あきひめ)」の混植ほ場から生まれたという。鮮やかな紅色で、粒が大きくて甘味がかなり強く濃かった。期待のイチゴとなるのだろうか。
 と思ったところで、三種町八竜の直売所で、「よつぼし」なるイチゴを見つけた。324円と250円のパックを求めた。今年から出た品種。適度の食感、強くない酸味と広がる甘さだった。
 能代山本の農家も果敢に果実に挑戦している。うれしい。(八)

                        


驚きの連続、大仙市アーカイブス

(5月14日)

 アーカイブという外来語は、NHKの過去の番組や映像を放送するアーカイブス・シリーズで身近になった。広辞苑では「古文書・記録文書類。また、その保管所。公文書館」。
 花火で知られる市に、歴史資料として重要な公文書、その他の記録を保存し、公開する施設「大仙市アーカイブス」が3日開館したとのニュースに興味を覚え、見学に出掛けた。飛び込みにもかかわらず、若い職員が丁寧に案内してくれた。
 驚きの連続だった。
 公文書館は、刈和野小との統合で廃校となった旧双葉小(前身は強首小と寺館小)を活用したものだった。
 外壁、内壁、サッシなどに木をふんだんに使った白鳥をかたどった建物で、羽にあたる廊下はカーブ、まだ新しい印象を受けた。それもそのはず。平成12年に新築されたが、急激な少子化によって12年後の24年春に閉校となったのだ。
 体育館は大書庫で大型の書架が40以上。圧倒された。教室を利用した特別貴重書庫は厚い扉に、整った空調、紫外線防止が施され、未来にしっかりと保存されることが伝わってきた。全体の書架延長は7300㍍余、収納可能冊数は約27万点。
 旧大川西根村の明治時代の議会の議事録、東北三大地主と言われた池田家に保存されていた小作人台帳、明治期の陸羽地震の災害記録、古地図などが展示され、大仙の歴史に触れることができた。
 公開されているのは1500点。しかし整理されていない書類・史料・古文書は「山のようにある」そうで、6人の職員が分類・保存を進めながら順次増やしていくという。
 アーカイブスは、合併前の太田町史の編さんに参加した黒澤三郎さん(89)が10年前に「子どもたちの未来のために」と提案したのが始まり。その年から市は公文書の全量保存を決め、ボランティアも加わって動き出し、総事業費約3億5000万円を投じて、東北の市町村では初のオープンにこぎ着けた。
 能代山本の歴史を解き明かす大切な資料、大事な古文書は散逸していないだろうか。市町の公文書は年限がくれば簡単に廃棄なのか。廃校の新たな活用はあるのか。帰路に思い巡らした。(八)

                        


「廃業に歯止めを、職人の確保を」

(5月11日)

 小社の出来事を紹介するのは気が引けるが、職人不足を痛感、同様の悩みと不安を抱える能代山本の事業所も多いと思われるので取り上げる。
 37年前に導入したオフセット輪転機。当初は新聞印刷用に稼働、現在は商業印刷用で〝活躍〟している。ところが過日、ギアの一部が欠けてしまい、修理を依頼せざるを得なくなった。ところが、メーカーはその機械分野から撤退、別の会社に譲渡していた。その上、当時製造の機械を熟知していて直せる技術者がいなかった。
 結局は定年退職していた71歳男性が登場、出張して腕を振るってくれた。同様の輪転機を使っている新聞・印刷会社はまだあり、修理の注文があるたびに、その技術者に要請しているらしい。その人が元気であるうちは何とかなりそうだが、若い技術者の養成は進んでいないようで、わが社の古いけれど元気な輪転機の先行きは心細い。
 先日、旧知の社長が訴えていた。「廃業に歯止めを、職人の確保を」と。確固たる技術力を誇り業績順調で、若い人が多く働く活気ある能代市内の製造業だが、心配の種のようだ。
 確かに、彼の会社の協力・下請け工場で、数人規模あるいは1人親方の事業所は高齢化や後継者難でいつのまにか廃業しているところがある。いずれも職人たちが長年の経験に基づく「ものづくり」の技術を発揮していたと思われる。
 そうした支えてくれる協力工場が廃業という形で減ってゆき、職人技も継承されなくなれば、自社で賄わなければならないが、事はそう簡単ではないだろう。
 ゴールデンウイークで能代に遊びに来た東京の準大手の総合建設業に働く知人は、オリンピックと都心の再開発による工事ラッシュで人手不足が深刻化していることを説明、総合職の自身も定年退職後の再雇用の年限を過ぎてなお働いてほしいと求められていることを明かした。
 どこも担い手不足。機械化・ロボット化が進んでも特殊な人の技が求められている。件(くだん)の社長の言う「廃業に歯止めを、職人の確保を」に取り組まなければ、地方の産業はさらに衰える。(八)

                        


国道101号はソフトクリーム街道

(5月5日)

 八峰町の食堂で先月、地元野菜ふんだんの「塩ちゃんぽん」が出来るのを待っていると、テーブルの上にラミネート加工された観光案内のようなものが置かれていた。
 手に取ってみると、「国道101号線ソフトクリーム街道」「一度食べたら癖になる!こだわりソフト大集合!」の文字。青森県鯵ケ沢町、深浦町、そして八峰町の13のソフトクリームが売り手、作り手の笑顔とともに載っていた。裏面では国道101号、五能線の入った地図にそれぞれのソフトの味の特徴や販売場所を紹介。
 八峰町の「おらほの館」のジオパークをイメージした味噌(みそ)と海塩のしょっぱさが混じった「ちそうソフト」、「ぶりこ」の爽やかな香りとさっぱり味の「さるなしソフト」は農産物や魚介、総菜を求めたついでに味わった。神秘的な青池を想像させる十二湖駅の「青池ソフト」は都会からの来訪者を案内しながら食べたが、ほかの10種類はまだない。
 深浦町は雪人参(にんじん)を特産品として売り出していることは知っているが、それを使った「ウエスパ椿山」のソフトは甘い人参ジュースのような味か。鯵ケ沢町の海の駅「わんど」のイカスミソフトは宣伝文句のほんのり磯の風味が漂うだろうか。興味をそそられ、能代側から北上したい気分になった。  
 全国各地で、秋田県では由利本荘市や大館北秋で、道の駅や農産物直売所で販売する「ご当地ソフト」を売り込む作戦が展開され、スタンプラリーといったイベントも行われているが、国道101号を「ソフト街道」としてPRしているとは気付かなかった。
 パンフレットが作成されたのは去年の3月。鯵ケ沢と深浦の二つの観光協会からなる青森の西海岸二町観光連絡協議会が「観光客が国道を使って車で移動するケースが多く、遊客手段として考えた」という。
 旅に出て、暑かったり疲れたりして、ソフトを求めることはしばしば。ソフト大好きのファンもいる。こだわりのソフトも立派な観光になり得る。
 ゴールデンウイーク後半。訪ねた産直施設は車にあふれ、県外ナンバーが目立ち、ソフトの売り場には列が出来ていた。(八)