蕎麦屋と食事処のレジで

(9月30日)

 所用があって訪ねた人口20万余の都市で蕎麦(そば)屋に入り、注文のランチセットを待っていると、座席から見える手打ちの道具が揃(そろ)った作業場に何やら段ボール箱が置かれていた。
 大手電気メーカーのロゴが印刷され、レジスターが入っていると分かった。目を凝らすと、軽減税率対策補助金対象機器の文字。
 消費税は1日から引き上げられ8%から10%に。ただし軽減税率が導入され、外食や酒類を除く食料品は8%のまま。蕎麦屋で食べれば外食になるから10%、持ち帰りとなれば8%である。
 その蕎麦屋は家族経営らしく3人で切り盛り、出前はしていないようだ。複数税率に対応するレジ機は不要と思われるが、中小事業者の新規購入には原則4分の3、3万円以下は5分の4の補助があるそうだから、古びてきたレジは廃棄して、更新するらしい。
 店には張り紙があった。材料の値上がりや諸経費の掛かり増しから、1日からお品書きの料金を引き上げることとし「何卒(なにとぞ)、ご理解たまわりますように」と。価格は税込みなので、消費税2%アップを含め50円程度の値上げとなるのか。
 その影響は出るのだろうか。蕎麦以外の店主こだわりの料理と日本酒・焼酎の充実、それにサービスで顧客をつなぎ止めると見た。
 従業員に「久しぶりね」と言われた能代市内の食事処(どころ)でカルビ丼の代金を払おうとすると、レジ横に見慣れないものがあった。
 一つはSuica(スイカ)やPASMO(パスモ)といった電子カードを触れさせると、「ピッ」っと読み取って支払いが完了する機器(リーダライタというそう)と、JCBやVISAなどクレジットカードで支払いする場合に暗証番号を入力するピンパッドなる装置だった。
 消費増税に伴うポイント還元とキャッシュレス決済の普及に対応するため1カ月前に導入したとのこと。「だいぶ慣れました」と話していたが、さまざまな電子カードが出てくることに戸惑いも感じているようだった。
 800円を用意したところ、チンと鳴ったレジの表示は864円。外税が加わっていた。明日からは880円である。(八)


 

「こでらいね」に「おめもかだれ」

(9月27日)

 11日付の小欄で、能代の方言は罵詈(ばり)雑言や否定語が多いと指摘した先輩が「心を引きつけられる方言はないか」と聞いてきたのに対し、浮かんでこなかったので、読者に情報を求めたところ、3人から反応があった。
 能代市内の80代の女性と出会うと、「私は『やちゃくちゃね』です」と話した。意外であり少々驚いた。
 「やちゃくちゃね」は一昨年12月の小欄で取り上げたが、県教委の「秋田のことば」では、物事が紛糾している様(さま)の擬態語「やちゃくちゃ」に、無いではなくて甚だしい意を表す「ねぁ」が付いて、「雑然としている」ことの表現である。
 そこから、①気持ちがおちつかず錯綜(さくそう)する様に②どうしていいのやらわからないほど混乱して③どうしたらいいのかとにかくもうどうにもこうにも気が散って──の場合にも使う。
 彼女がこの方言を好むのは、何とも言いようのない①~③の心持ちを「やちゃくちゃね」が一言で言い表し、使いがいがあるからだと推測した。
 60代と思われる女性からの電話では「おめもかだれ」。古典語に「かつ」で加えるの意のある語があるそうで、加わることを「かたる」、加えることを「かてる」という。
 「おめもかだれ」は「お前も仲間に入れ、仲間になれ」の意味。語調は強いけれど、人を爪弾(つまはじ)きにせず「みんな仲間になろう、輪になろう」という共生の心根を示す実は優しい方言と知った。
 小社のネットニュースを毎日見ている宮城県仙台市の同期生がメールを寄越(よこ)した。
 「心に残るというか、使い続けたい言葉のひとつとして、普段から無意識に言ってしまうのが『こでらいね』です。旨(うま)い物を食べた時、物事がうまくいってホクホク上機嫌な時、おもわず口に出るのです。これを標準語?にすると『堪えられない』になるのでしょうが、どうもしっくりときません。同音の『答えられない』と勘違いされたり、やはり、能代で育った者として言う言葉は『こでらいね』です」。
 「やちゃくちゃね」になったら「おめもかだれ」と誘って、美味(おい)しいものでも食べて「こでらいね」になろう。食欲の秋。(八)


 

秋、自然の実りが花咲かす

(9月20日)

 プロの料理人の後輩が「イチジク、食(く)すか」と話した。果物の好みは人それぞれ。イチジクはねっとり感に好悪が分かれるので、彼は探りを入れるように聞いてきたのだ。
 果物は嫌いなものがほとんどなく、イチジクは子どもの頃から生で、甘露煮などと食べて慣れ親しんできたので、好物である。それで、「食(く)」と返事したところ、彼は「食(け)」とは言わなかったけれど、生を5個ほど、それにコンポートを10個ほど持たせてくれた。
 和種のいずれも大振りで、熟し加減がよいものばかり。実家の所有地にイチジクの木が何本かあるらしく、今年は実の付き具合がかなりいいので、急ぎもぎ取って、当方にまでお裾分けがきたのだ。
 果物を薄い砂糖水で煮て作るヨーロッパの伝統的な保存料理のコンポートだが、後輩は大量の白ワインを入れてコトコト煮たらしく、口に入れるとファーと香りが広がり、風味が良い果肉が優しく溶けた。大人のコンポートと思ったところ、彼曰(いわ)く、実母は「美味(うま)くない」と言ったそうで、洒落(しゃれ)たものより、高齢者は伝統的な甘露煮風を好むと苦笑い。
 農産物直売所に寄ると、鮮やかな紫色に目が止まった。アケビであった。「ミツバアケビ」との表示があり、栽培物らしい。2個入りで50円と安かったので、カゴに入れた。
 味噌(みそ)炒めやキンピラにどうぞと表記。自宅で手で割って、半透明の果肉をスプーンですくって口に入れると、トロリとして濃い甘味を感じた。いつもながら種は邪魔で、口から出すのにもペッペッを何度もしなければならなかったが。
 皮を細く切って、味噌炒めにして食べると、独特でありながらも抵抗感のない苦味が何ともいえず、旨(うま)いと感じた。「秋も苦味を盛れ」「ちょっぴり苦い秋の大人の味」なのである。翌日は、「焼きナスの冷やし」が食卓に。「秋ナスは嫁に食わすな」というほど、これもまた美味。
 1カ月ほど前の能代出身で神奈川県の友人の便りを思い出した。
 「能代の秋は、梨から始まって果実、魚、キノコ、新米と自然の実りが花を咲かす時、体調をうまく管理して、大いに楽しんでください」(八)


 

35年前の大鵬部屋ちゃんこ鍋

(9月15日)

 昭和の大横綱の大鵬のことは、72歳で亡くなった平成15年1月と、国民栄誉賞を受賞した同年3月の後に2度、小欄に思い出と能代での逸話を載せた。
 大鵬こと納谷幸喜さんの曽祖父の納谷市松さんと妻のキヨさん(旧姓加賀)がともに能代出で明治期に北海道に渡り、ルーツが能代にあることや、小結当時の昭和35(1960)年7月に巡業で能代場所に出場、その折に墓参りで菩提(ぼだい)寺に立ち寄ると、若き力士を一目見ようと大勢の市民が集まり、庫裏の縁側が落ちたというエピソードである。
 その大鵬が好んだちゃんこ鍋が秋田市内の居酒屋で供されることになったというニュースを知って、「そういえば「大鵬部屋のちゃんこを一度だけ食べた。美味(うま)かったなあ」と懐かしんだ。
 昭和59年8月5日から3日間、大鵬部屋一行は旧琴丘町で夏季合宿を行った。前年に屋根付きの町営相撲場が完成したことで誘致。ちゃんこ鍋講習会が公民館で開かれ、小欄と整理部の女性記者が取材に出掛け、ちゃんこのご相伴にあずかったのだ。
 指導者は大鵬夫人で秋田市出身の芳子さん。近所の主婦ら約30人がスタミナたっぷりの「鶏ちゃんこソップ炊き」を学んだ。調理の最後の段になって大鵬が顔を出し、直々に味付けをすると、おいしいと思ったスープがさらに深みを増した。
 それでは当時の掲載したレシピを。分量は適宜、自在に。
 ①鶏ガラでスープを作る②糸コンニャクは手でちぎるか湯飲み茶碗で切る。ダイコンとニンジンは薄く大きくそいで、箸が突き刺さるぐらいにゆがく。ゴボウはそいで水に漬けておく③油揚げは八つ切りする。タマネギは半分に割り、四つに切る。キャベツは八つ切りにしてばらばらにしない。生シイタケは石突きを取る、ニラは半分に手でちぎっておく④スープに鶏肉を入れて煮立ったらタマネギを入れる⑤醤油(しょうゆ)と砂糖で味を薄くつけ、野菜の甘味を出すのがコツ⑥煮立ったらコンニャク、油揚げ、生シイタケ、エノキダケの順で入れ、醤油、砂糖、酒で味を整え煮込む⑦食べる直前にキャベツ、ニラを入れる⑧肉、野菜などを食べた後でご飯代わりに生うどんを入れてもいい──。
 「最初にスープに味をつけないこと」と芳子さん。わが家で大鵬ちゃんこをどうぞ。(八)


 

心引きつける「良い方言」は

(9月11日)

 街で見掛ければ会釈を交わすけれど、双方ともぶすっとしているためか会話には及ばなかった一つ上の先輩と久しぶりに出会って、40数年ぶりに話し込んだ。話題は青春の思い出から、いつしか彼が投げ掛けた方言への疑問に移り、居合わせた当方も含めた3人が「そうだよな」と相づちを打ち、ああだこうだと話が広がった。
 彼の疑問とは、人を汚くののしったり、悪(あ)し様(ざま)に言ったりする方言が秋田には多く、また良い言葉であったにしても能代の場合は否定語にして使うことが多いのは、なぜだろうということであった。確かにである。小欄で掲載したものも含め罵詈雑言(ばりぞうごん)はかなりある。
 思い付くだけでも、馬鹿者には「げほー」「ぬげさぐ」、役立たずや道楽者には「たなぎもの」「たがらもの」、半人前には「と(た)ぐらんけ」「はんくたもの」、しみったれには「がめ」、見栄っ張りには「きだふり」、怠け者には「うじけたがれ」「からぽやみ」「ひやみこぎ」、ろくでなしには「してけぁしもの」など。本人の面前であるいは陰で言う人が案外いる。
 彼は「くされたまぐら」を挙げた。この方言については小欄でも2度ほど説明したが、玉釧(たまくしろ)に由来する鍬(くわ)や鎌の柄を締める鉄製の輪は腐食すると緩くなってどんなサイズの柄にもはまることから、役に立たないのに何にでも口出しする(=はまる)人を指す」(県教委刊『秋田のことば』)のこと。彼はこの方言と由来が気に入っているようだった。
 一方、否定語については、ゆったりとした気分でくつろぐことができる状態を表す「あじまし」を示した。津軽の人は「気持ちがいい、安心だ、満足だ」の場合に情感を込めて「あじましーっ」と言うのに、能代周辺では「あじましぐね」と否定して使うのがほとんどだとの指摘である。そういえば具合・塩梅(あんばい)がいいことを言う「あんべいい」も、能代では「あんべわり」「あんべいぐね」と否定して語る方が圧倒的だ。
 県民性に気性の荒さがあるとも斜に構え過ぎているとも思えないのだが。彼は心を引きつけられる方言はないかと聞いてきた。けれど浮んでこない。読者の皆さんに情報を求めます。連絡を。(八)


 

新成人は政治に問うている

(9月3日)

 7月の参院選の比例区で2議席を獲得した「れいわ新選組」と、1議席の「NHKから国民を守る会」(N国)が能代の若者のこんなにも支持されているのかと驚いた。それに比して、既存の野党の低迷・凋落(ちょうらく)は何ということだろうと「隔世の感」を覚えた。
 先月に連載した小紙恒例の新成人アンケートの結果と分析のうち「政党支持」(8月28日付)である。
 再掲すると、支持率の高い順に①自民党38・4%②N国6・3%③れいわ新選組3・6%④国民民主党2・2%⑤共産党1・3%⑤公明党0・9%⑦日本維新の会0・5%⑧社民党0・0%で、「支持政党なし」が44・6%だった。社民党の支持率ゼロは4年連続。
 6年前に発足しているものの、その存在は「NHKをぶっ壊す」と連呼して参院選で広く知られたN国党が2位、参院選に向けて4月に結党したばかりの山本太郎氏率いる「れいわ新選組」が3位。若者が新しい党に関心を持つことはこれまでにあったにしても、いわばぽっと出の政党に支持が集まるのは異例といえる。
 ちなみに、参院選の能代山本の比例区の政党別開票結果は得票率の高い順から①自民党44・5%②立憲民主党13・5%③公明党10・6%④国民民主党8・6%⑤共産党8・1%4・5%⑥維新の会4・5%⑦社民党3・8%⑧れいわ新選組3・3%⑨N国1・8%で、新成人とはかなり異なる。
 一般的に「革新」「リベラル」といえば、50代以上は共産党や社民党が浮び、それに旧民主党から離合集散した立憲民主党に国民民主党を加えた野党を見るが、若者にとってはリベラルは古い政党ではなく、「いままでの政治を変える、変わらなければならない」との期待感を抱かせ、テレビから新鮮さが伝わってきたN国、れいわ新選組であったと思われる。
 同時に、既存の野党の存在感が見えず、与党寄りの政党にも埋没感があり、支持政党なしが5割近くに達し、自民党がここ数年の40%前後を維持していると分析する。 能代の新成人は問うている。「政治は若者の関心をどう呼び寄せるのか」と。(八)