近海の夏の魚介の旬

(7月14日)

 若い調理人が「ようやく釣れました」と笑顔を見せながら、「おつまみにどうぞ」と小皿に盛った「刺し身」を出してきた。
 淡い白身が何とも清涼感を運んできて、2日ばかり寝かせたというそれに醤油(しょうゆ)とワサビを付けて頬張ると、ねっとりではなくしっとりとした柔らかさとほのかな脂身が何とも言えぬ「夏の味」を運んできた。
 スズキだった。米代川河口近くにこの1カ月、ほぼ毎朝通ったが、毎日が〝ぼうず〟。師匠からおこぼれをもらうばかりで、「だめだぁ」とがっくり肩を落とす日々だったが、先日ようやく2本の釣果があった。体長は70㌢と立派なものだった。
 彼と知り合って、ここ数年スズキの刺し身を食べるようになったし、彼の義父はスズキの粗(あら)と豆腐を使ったザッパ汁を供してくれるが、それまでは、どちらかというと避けていた。
 江戸時代の松江藩の茶人でも知られた号・不昧(ふまい)の藩主松平治郷(はるさと)公が宍道湖のスズキを奉書紙に包んで焼いた「スズキの奉書焼き」を好んで食べたとの知識はあったが、子どもの頃に米代川が汚れていて、獲れたスズキは泥臭いと周りが好んで食べなかったのが影響したのかもしれない。
 とある社長から電話。「メジマグロ釣れたから一杯やらないか」と。フィッシングボートを所有する彼は、初夏から能代沖でマグロ漁に興じているらしい。前に会った時、「釣ったら食べさせる」と話していたが、「いつになるやら」と茶化したのが奮起につながったのか、20㌔超をゲットしたという。
 魚介料理が売りの店に持ち込んで、テーブルに並べたが、刺し身は爽やかな甘味で食感もなめらかで、特に中トロは薄く脂が乗って美味このうえなし、赤身もまたさっぱり。かぶと焼きは豪快、粗や血合いの煮付けは染みた味が酒の肴(さかな)にぴったりであった。
 次は何。オコゼの唐揚げも、キスの天ぷらも、生ガキも、ツブの煮付けもよし。近海の夏の魚介の旬と楽しみたい。(八)


 

100人不起訴の不公平感

(7月8日)

 50年以上前の事件だから関与した人の大半は鬼籍に入っているがその人たち、そして存命の人々はどう思っているだろうか。「あまりにも公正さを欠く。それで本当にいいのか」と大いなる憤りを覚えたか。
 戦後、能代山本では国政・地方問わず選挙があるたびに候補者に1票を投ずることを求め有力者や運動員が現金を渡す買収が相次いだ。収まるのは平成に入ってからようやく。
 昭和54(1979)年は県議選能代市選挙区、市議選、峰浜村長選で起訴4人、略式起訴53人。翌55年の八竜町長選では前町長はじめ助役、収入役、議員らが逮捕され、起訴9人、略式命令請求51人に及び、町議補欠選挙が行われた。その後の町議選、県議選、町長選、衆院選で町議や候補者の親族、業界団体や会社幹部らが逮捕、起訴された。
 買収額は多くて5~7万円、1万~5000円が相場で、買収された人は、受領額を上回る罰金と公民権停止を言い渡された。
 半世紀を経たとはいえ、能代山本の選挙事犯と不公平感があるのは、一昨年7月の参院選をめぐる広島県を舞台にした大規模買収事件。東京地検特捜部は6日、河井克行元法相と当選した妻の側から現金を受け取った地元政治家ら100人全員を不起訴としたのだ。
 提供した総額は約2870万円。最高額は元国会議員秘書の300万円、元県議会議長は200万円、同県内の元市長150万円、40人を占める地元政治家は10万円以上という。それでも罪に問われない。
 検察側は、政治的に大きな影響力を持っていた河井被告が主導、非買収側は受動的で、返金したり自宅で保管していた例もあることなどを不起訴理由に挙げているが、能代山本の事案でも力のある人の主導に積極的でない受動、やむを得ず受け取らざるを得ないといった同様のことはあったはずで、誰もが疑問を抱き納得しないだろう。
 政治不信に続く検察への不信は、地方の選挙のさまざまにも影響を及ぼすだろうか。(八)