クマの駆除への抗議

クマ被害が異常なペースで発生し、全国の人身被害は11月までに200件を超え、過去最悪。
本県でもつい先日まで毎日のように目撃が報じられ、捕獲もすでに2千頭以上と聞くが、駆除したことに抗議が殺到したとも報じられている。

数年前、阿仁マタギを日本遺産に登録するためのマタギシンポジウムが北秋田市で開かれ、狩猟文化を研究する大学教授らの講演と討論を聴いた。
全国に狩猟文化がありながら、阿仁マタギが全国に知られるようになった理由は、阿仁マタギこそが捕獲したクマを市場経済に乗せて狩猟をバージョンアップさせ、それを他の猟師たちがまねた──といった見解にうなずいた。
その中で印象に残る言葉も聞いた。

「これより後の世に生まれて良い音を聞け」

マタギが捕獲したクマの霊を送る際に唱えるマタギ、あるいは猟師独特の「ヤマコトバ」だという。
「良い音」とは何かなど意味の解説はなく、調べてみると、魂の輪廻転生を信じる死生観や、命に対する感謝が込められていると解釈した。

素晴らしい文化だと思う。
だから、クマの駆除に対する抗議も分からないではない。
とはいえ、人がクマの生息地である山に入って被害に遭うならまだしも、クマが駅前や線路沿いをうろついたり、作業小屋に立てこもる事態は尋常ではない。

実は先日の夜、三種町から大潟村に向かう橋の上を車で走行中、クマと衝突した。衝突後、ヨロヨロと走り去るクマの姿に気の毒さを感じたが、車が破損したわが方も経済的に大損害。
クマを「神様」と呼んで崇めながら、仕留めた命を悼み「後の世に生まれて良い音を聞け」と言葉を贈った阿仁マタギの先人たちも、よもやこんな時代がくるとは想像できなかったはず──と思わずにいられない。

(岡本 泰)

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